脂漏性皮膚炎とは
脂漏性皮膚炎は、皮脂の分泌が多い部位に生じやすい慢性的な皮膚の炎症です。代表的な部位は、鼻の横のしわ(鼻唇溝)、鼻まわり、眉間や眉毛の周囲、そして頭皮です。症状としては赤み、かゆみ、フケのような落屑などがみられます。一度発症すると完全に消えることは難しく、長期的に症状と付き合いながらケアしていく必要があります。症状には良い時期と悪い時期があり、患者さんにとっては生活の中で負担となることも少なくありません。
脂漏性皮膚炎の原因
この疾患は、皮膚に常在している「マラセチア」という真菌(カビの一種)が分泌する物質に、皮膚が過敏に反応することで炎症が起こると考えられています。特別に不衛生であることが原因ではなく、誰にでも起こり得るものです。アレルギー性ではなく、炎症反応によって症状が現れる点が特徴です。
脂漏性皮膚炎は男性に多く見られ、発症しやすいのは乳児期と青年期です。乳児では生後2〜4週頃に発症し、ほとんどは生後8〜12か月の間に自然に改善していきます。成人では年齢の幅は広いものの、特に30〜40代に多く、全体の有病率はおよそ3%とされています。また、HIV感染者やパーキンソン病の方など、一部の基礎疾患を持つ人では発症しやすい傾向があります。
増悪因子
脂漏性皮膚炎は、生活環境や体調の変化によって症状が強まることがあります。特に、精神的なストレスや気温の低下は悪化の要因としてよく知られています。また、リチウム製剤やインターフェロンなど一部の薬剤を使用している場合にも、症状が増悪することが報告されています。
ストレスが加わると自律神経のバランスが崩れ、皮脂の分泌が過剰になりやすくなります。さらに、寒冷で乾燥した季節には皮膚のうるおいが保たれにくく、炎症が起こりやすい状態になります。薬剤の影響も皮脂の分泌を変化させるため、結果として脂漏性皮膚炎を悪化させる可能性があるのです。
脂漏性皮膚炎の主な症状
脂漏性皮膚炎は、皮脂の分泌が活発な部位に出やすいのが特徴です。頭皮、耳、顔の中央部、胸部、眉間などに生じやすく、とくに頭皮ではフケやかゆみが目立ちます。進行すると頭部に油っぽい黄色のかさぶた状の皮膚が付着し、耳の後ろに広がるとひび割れが起こることもあります。
顔では髪の生え際や眉間、眉毛、鼻唇溝(鼻の横の溝)に現れやすく、頬に広がる場合もあります。男性ではひげの部位に症状が出ることがあり、ひげを剃ることである程度抑えられる場合もあります。目のまわりだけに症状が出るケースもあり、そこが唯一の病変部となることもあります。
体では、脇の下、乳房の下、へそ周囲、生殖器の周辺に現れることがあります。成人ではかゆみを伴うのが一般的ですが、乳児ではかゆみがほとんど見られません。
また、顔の赤みを伴う「酒さ」という別の皮膚疾患と似ていることもあります。酒さは免疫の異常で赤みが出る病気ですが、脂漏性皮膚炎は特に鼻の横や眉間、眉毛、あごなど皮脂の多い場所に出やすいという違いがあります。
脂漏性皮膚炎の治療
外用薬
脂漏性皮膚炎の治療では、主にステロイド外用薬と抗真菌薬が用いられます。炎症が強い時期にはこれらを併用し、症状が落ち着いてきたら抗真菌薬を中止し、一定期間はステロイド軟膏を継続します。その後は再発を防ぐため、ステロイドの使用量や塗布回数を少しずつ減らしていくのが一般的です。
急に使用をやめると症状がぶり返す恐れがあるため、段階的に減量することが大切です。ステロイド以外にも炎症を抑える外用薬が存在するため、副作用などの懸念がある場合には代替薬の使用が検討されることもあります。
漢方薬
症状によっては漢方薬が治療に組み込まれることがあります。代表的な処方には、十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう) や 荊防敗毒散(けいぼうはいどくさん) などがあります。ただし、漢方薬による治療効果は西洋医学の薬剤ほど科学的に確立されていない部分もあり、すべての患者さんに処方されるわけではありません。
重症例や炎症が強い場合に使用されることが多く、また他の漢方薬と組み合わせて処方されることもあります。治療選択は一人ひとりの症状や体質を踏まえて、医師が慎重に判断します。
脂漏性皮膚炎のよくある質問 Q&A
脂漏性皮膚炎は治りますか?
脂漏性皮膚炎は慢性的に経過する皮膚疾患で、良くなったり悪化したりを繰り返すため「完治」は難しいと考えられています。ですが、ステロイド外用薬や抗真菌薬を適切に使用し、日常的にスキンケアを丁寧に行うことで、症状を抑えて快適に過ごすことは十分に可能です。
市販薬で治療できますか?
市販品の中には弱いステロイド成分を含むものもありますが、効果は限定的です。多くの場合、医師が処方する抗真菌薬や強めのステロイド外用薬が必要になります。そのため、市販薬で十分な改善が見られない時は、できるだけ早く皮膚科を受診することをお勧めします。
おすすめのシャンプーはありますか?
はい。抗真菌成分が配合されたシャンプーが効果的です。日常的に使うことで再発予防にもつながります。ただし、1か月ほど継続しても改善が見られない場合は、別の製品への切り替えや医師の診察を検討してください。
化粧品はどんなものを選べばよいですか?
脂漏性皮膚炎のある肌には、刺激の少ない低刺激タイプの化粧品を選ぶと安心です。また、紫外線による悪化を防ぐために日焼け止めの使用も推奨されます。なお、カビを除菌しようとアルコール消毒を顔に使用するのは逆効果で、炎症を悪化させる可能性があるため避けてください。
洗顔方法に注意点はありますか?
皮脂が多い方向けの洗顔料をしっかり泡立てて使用し、やさしく洗顔するのが基本です。スクラブ入りなど刺激の強いタイプを選ぶ必要はありません。洗顔後は必ず保湿をして、皮膚の乾燥を防ぎましょう。
脂漏性皮膚炎は食事で改善できますか?
現在のところ、特定の食事が脂漏性皮膚炎の改善に有効であるという明確な科学的根拠はありません。ただし、一部の研究では果物を多く摂取することが再発予防に役立つ可能性があると報告されています。とはいえ、確立されたエビデンスはまだ十分ではありません。
脂漏性皮膚炎は人にうつりますか?
いいえ。脂漏性皮膚炎は感染症ではありません。誰の皮膚にも存在する常在菌(マラセチア)が産生する物質に対して炎症反応が起きることで発症します。当院でも多くの患者さまの診療を行っていますが、長期にわたる治療を要することもあり、患者さまの負担が大きい疾患です。気になる症状がある方はお気軽にご相談ください。