過敏性腸症候群(IBS)とは
過敏性腸症候群は、腹痛や下痢、便秘、腹部膨満感などの症状が慢性的に続く一方で、腸に炎症や器質的な異常は認められない疾患です。症状は腸の蠕動運動の乱れや腸の知覚過敏が原因と考えられています。 多くの場合、慢性的な下痢や便秘をきっかけに受診され、診断されることが一般的です。また、不安や緊張、生活環境の変化などのストレスが症状を悪化させることもあり、「体質だから仕方ない」と諦めてしまう方も少なくありません。
しかし、過敏性腸症候群は適切な治療や生活習慣の改善によって症状を和らげることが可能です。腹部の不調でお悩みの方は、早めに消化器内科を受診することをおすすめします。
過敏性腸症候群になりやすい人
IBSは誰にでも起こる可能性がありますが、特に以下のような方に多くみられます。
- 強いストレスや緊張状態が続いている方
- 食生活が不規則、早食いや過食の習慣がある方
- 下痢や便秘を繰り返す体質の方
- 睡眠不足や生活リズムの乱れがある方
- 過去に感染性腸炎を経験したことがある方
- 家族にIBSの症状がある方
これらの傾向がある方は、腹部の不調を感じたら早めに消化器内科を受診することが大切です。生活習慣や食事、ストレス管理などを組み合わせた対策により、症状の改善が期待できます。
過敏性腸症候群のタイプ
過敏性腸症候群(IBS)は症状の特徴によって大きく4つのタイプに分けられます。タイプに応じた治療や生活習慣の改善が重要です。
下痢型
頻繁に軟便や水様便が出るタイプです。腹痛や腹部の不快感を伴いやすく、食事やストレスによって症状が悪化することがあります。
便秘型
便が硬く、排便が困難なタイプです。便秘に伴って腹部膨満感や腹痛が起こることがあり、生活習慣の改善や適切な薬物療法が症状緩和に役立ちます。
混合型
下痢と便秘が交互に現れるタイプです。症状の変動が大きく、日常生活への影響も強くなることがあります。
分類不能型
下痢や便秘など典型的な症状がはっきりと分類できないタイプです。個々の症状に合わせた対応が必要です。
症状のタイプを正しく把握することで、適切な治療計画を立てやすくなります。腹部の違和感や排便の異常が続く場合は、早めに消化器内科での相談をおすすめします。
受診の目安
- 腹痛や下痢・便秘が数か月以上続く
- 症状が生活に支障をきたすほど強い
- 食事やストレスによって症状が悪化する
- 自己判断で改善しない、または症状が悪化している
過敏性腸症候群は自己判断で放置すると、日常生活に大きな影響を及ぼすことがあります。消化器内科で正確に診断を受け、症状に応じた治療や生活改善を始めることが大切です。
過敏性腸症候群の検査・診断
過敏性腸症候群の症状は、腹痛や下痢、便秘、膨満感などで、他の大腸疾患と重なることがあります。特に大腸がんや潰瘍性大腸炎、クローン病といった疾患でも同様の症状が現れるため、まずはこれらの重篤な病気ではないかをしっかり確認することが重要です。 大腸カメラ検査では、大腸の粘膜全体を詳しく観察することができます。各疾患には特徴的な病変があるため、炎症の有無や範囲、分布を確認し、必要に応じて組織を採取して病理検査を行うことで、正確な診断が可能です。 過敏性腸症候群は、大腸カメラ検査で器質的な異常が認められない場合に初めて疑われる機能性疾患です。確定診断には検査だけでなく、丁寧な問診と世界的に用いられる「Rome基準」に基づいた評価が必要です。
過敏性腸症候群の診断基準(Rome IV)
過敏性腸症候群(IBS)の診断には、Rome IV(R4)基準が用いられます。主な基準は以下の通りです。
- 腹痛などの症状が排便により軽減する
- 症状の有無によって排便の頻度が変化する
- 症状の有無によって便の形状や状態が変化する
これらの症状が6か月以上前から続き、最近3か月のうち1か月につき少なくとも3日以上症状が見られ、上記の2項目以上に該当する場合に、過敏性腸症候群と診断されます。
過敏性腸症候群のタイプ別治療と生活改善
過敏性腸症候群は、症状のタイプに応じた治療と生活習慣の改善が重要です。ここでは代表的な治療法や日常生活で意識したいポイントをタイプ別にご紹介します。
下痢型の場合
治療法
- 下痢を抑える薬(止瀉薬)の使用
- 腸の運動を調整する薬(抗けいれん薬など)の活用
- 腸内環境を整えるプロバイオティクスの服用
生活改善のポイント
- カフェインやアルコールを控える
- 食物繊維の摂取は少量ずつ調整
- ストレス管理(趣味や深呼吸、軽い運動)
便秘型の場合
治療法
- 便を柔らかくする薬(緩下剤)
- 腸の蠕動を促す薬(消化管運動改善薬)
- 水分補給と食物繊維の摂取
生活改善のポイント
- 食物繊維をバランスよく摂る(野菜・海藻・果物など)
- 水分を十分に摂る
- 規則正しい排便習慣を心がける
混合型の場合
治療法
- 下痢と便秘の症状に応じて薬を調整
- 腸の運動や神経の過敏性を調整する薬の活用
生活改善のポイント
- 食事や生活リズムを安定させる
- ストレスの影響を受けやすいため、リラクゼーションを取り入れる
- 食事日記をつけて症状を把握しやすくする
分類不能型の場合
治療法
下痢や便秘の治療薬を必要に応じて使用する、腸の過敏性を抑える薬や漢方の活用など、症状に合わせた個別対応となります。
生活改善のポイント
- 食生活・睡眠・運動・ストレス管理など、生活全般の見直し
- 腹部の違和感や不調を悪化させる習慣をチェック
症状のタイプや強さは人によって異なるため、自己判断での対応は避け、消化器内科で正確に診断を受けることが大切です。適切な治療と生活改善を組み合わせることで、日常生活の快適さを取り戻すことができます。
過敏性腸症候群のよくある質問
過敏性腸症候群は治りますか?
過敏性腸症候群は完全に治る病気ではありませんが、薬物療法や生活習慣改善、ストレス対策を組み合わせることで症状を大幅に軽減できます。個人に合わせた治療で、日常生活の質を向上させることが可能です。
どのような症状があれば過敏性腸症候群を疑うべきですか?
腹痛や腹部の張り、下痢や便秘が慢性的に続く場合、過敏性腸症候群の可能性があります。症状が数か月以上続く場合や、ストレスで悪化する場合は受診を検討してください。
食事で症状を悪化させない方法はありますか?
刺激物(脂っこい食事、香辛料、アルコール、カフェイン)や過食を避け、規則正しい食事を心がけることが症状の悪化を防ぎます。食事日記をつけて、自分に合わない食品を確認することも有効です。
過敏性腸症候群はストレスで悪化しますか?
はい。ストレスや環境の変化で腸の動きが乱れやすく、症状が悪化することがあります。趣味や運動、十分な睡眠でストレスを軽減することが症状改善に役立ちます。